みこもかる通信~web版~第18回       厨二トンボでも旅がしたい!

第18回  厨二トンボでも旅がしたい!

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 夏にになると、日本各地の田畑や河川敷などで、たくさんのトンボが空を飛び交う姿が見られるようになります。
 おそらくそれは「ウスバキトンボ」です。

和名 :薄羽黄蜻蛉 ウスバキトンボ
学名 :Pantala flavescens
分類 :トンボ目トンボ科ハネビロトンボ亜科ウスバキトンボ属

「薄羽黄蜻蛉」の漢字が示す通り、薄い翅を持つ黄色(どちらかというと橙色)のトンボです。
お盆の頃によく見られることから「盆とんぼ」や「精霊(しょうりょう/しょうろう)とんぼ」などとも呼ばれます。昔から、お盆に帰ってくるご先祖様の魂を運ぶトンボとして、親しまれてきたのでしょう。

ウスバキトンボ
ナツアカネ(夏に確認できる未成熟個体)

 なお代表的な赤とんぼであるアキアカネやナツアカネと外見は似ていますが、分類的・遺伝的には属レベルで異なっているとされています。ちなみにアキアカネ等が含まれるアカネ属は日本に約20種・世界に50種いるのに対し、ウスバキトンボ属は日本に1種・世界でも2種しか確認されていません。

厨二心をくすぐられる!?ほかのトンボとちょっと違う特徴

 特徴のひとつが、「省エネに特化した飛翔力」です。
 トンボは総じて飛翔能力の高い昆虫です。スピード特化型のヤンマ科、飛行精度特化型イトトンボ科などがありますが、長距離移動特化型としては、ウスバキトンボが際立っています。

 ウスバキトンボは、体に対して大きな翅を持ち、体も非常に軽いため、翅を大きく羽ばたかせ続けなくても風に乗ってグライダーのように滑空することができます。少ないエネルギーで長時間飛び続けられる、まさに長距離移動に適した体つきをしているのです。

 この高い飛翔能力と、季節風に乗ることで、その移動距離は数千kmにも及ぶといわれています。こうした長距離移動能力を持つことから、ウスバキトンボは昆虫の中でも数少ない「汎世界種(コスモポリタン)」のひとつとして、世界の熱帯から温帯にかけて、非常に広い範囲に生息しています。
※汎世界種……汎存種(はんぞんしゅ)ともいう。世界の広い範囲に生息する動植物のこと。ヒトやドブネズミ、シャチなどが代表的な例。

 そして、この優れた飛翔能力を活かし、ウスバキトンボは蝶のアサギマダラのように「渡り」をする昆虫としても知られています。
 ウスバキトンボは、幼虫の期間が約1か月、成虫になってからの期間も1か月ほどと、トンボとしては世代交代が早い部類に入ります。そのため、世代交代を繰り返しながら、日本列島を少しずつ北へ向かっていきます。なんとカムチャッカ半島まで到達する集団もいるそうです。
 繁殖能力も高く、産卵数はアキアカネやシオカラトンボの10倍以上と言われています。
つまり私たちが日本で普段見かけるウスバキトンボの大群は、東南アジアから台湾、南西諸島を経て、はるばる日本列島までやって来た個体、もしくはその子孫なのです。

華奢な体に秘められた驚異的な飛翔能力と繁殖能力。
ウスバキトンボは、まさに「海を渡るトンボ」なのです。

 しかし、どの世代もひたすら北を目指しますが、ウスバキトンボは熱帯性の昆虫であり、九州以北では、越冬できず全て死滅します。現在日本で定着が確認されているのは、石垣島や西表島などの八重山諸島までと言われています。
 このように、移動先で定着できずに死滅してしまう渡りのことを、「死滅回遊」または「無効分散」と言います。ウスバキトンボが種として一見無駄な「死滅回遊」を行うのはなぜか?一説には温暖化などの環境変化に際し、速やかに生息範囲を広げるためだと言われています。

童謡「赤とんぼ」、実はウスバキトンボ?

 このウスバキトンボにはもう一つ面白い話があります。
 童謡「赤とんぼ」で歌われているとんぼは、実はウスバキトンボではないか?という説があるのです。
 まず前提として、「アカトンボ」という種類のトンボがいるわけではありません。「赤とんぼ」として一般的に知られているのはアキアカネで、稲刈りの頃に田んぼの周りで見られることもあり、日本中で親しまれています。

 では、なぜ「赤とんぼ=ウスバキトンボ」という説があるのでしょうか。主な根拠として、次の二つが挙げられます。
・作詞者である三木露風の出身地・兵庫県たつの市を含む西日本では、ウスバキトンボが群れをなして飛ぶ姿が身近な風景として親しまれていること。
・代表的な「赤とんぼ」であるアキアカネは、夕方になるとあまり飛ばなくなるため、「夕焼小焼の赤とんぼ」という歌詞のイメージとは合わないのではないか、ということ。

 一方で、「赤とんぼ=アキアカネ」という説を支持する理由として、次のようなものがあります。
・ウスバキトンボは、ぶら下がるようにとまることが多く、「竿の先」にとまるトンボというイメージには、アキアカネのほうが合っていること。
・ウスバキトンボは赤というより橙色や黄褐色に近く、そもそも一般的な「赤とんぼ」のイメージとは異なること。

 これら二つの説とは別に、三木露風が幼少期の記憶をもとに作詞していることから、二種類のトンボを明確に区別していなかったとする解釈もあります。すなわち、夕焼け空を飛び交うウスバキトンボと、竿の先にとまるアキアカネ――こうした二つの情景が一体となって、あの「赤とんぼ」の歌詞が生まれたのではないか、という見方です。
 ちなみに、私個人としては、ウスバキトンボが竿の先にとまっている姿はあまりイメージできないため、「赤とんぼ=アキアカネ」説を支持します!

ウスバキトンボ
ミヤマアカネ
アキアカネ(秋に確認できる成熟固体)
ショウジョウトンボ

 日本各地で風物詩として親しまれている一面がありながら、トンボとしては圧倒的な飛翔能力と繁殖能力を武器に、昆虫では珍しい「死滅回遊」をする「汎世界種」
 そんな、設定モリモリで厨二心をくすぐられる昆虫が、ウスバキトンボです。
 皆さんもぜひ、彼らを「赤とんぼ」とひとくくりにせず、その壮大な旅路に思いをはせてみてください!